理科室の壁に、あの表が貼ってありました。
細かいマスがぎっしり並んでいて、見慣れない記号が詰まっている。テストのために「すいへいりーべ」と唱えて覚えた記憶がある方も多いと思います。そして多くの人にとって、周期表とはそこで終わった表ではないでしょうか。
もったいない話です。あの表は、覚えるための表ではなく、読むための表だからです。
しかも、読み方はほとんど一つしかありません。縦を見る。それだけです。
この連載『元素の話』を始めるにあたって、まずその読み方をお話しします。
まず、全体を見てみましょう
これがDeepFlows版の周期表です。
周期表 — 縦にならぶと、性格が似る
上の帯(族の番号)にカーソルを合わせる(スマホはタップ)と、その列だけが残ります。オレンジに光っているのが、この連載で取り上げる14元素です。
横に切れている場合は、表を左右にスワイプしてください。
〜Lu
〜Lr
配置は IUPAC の周期表に従いました。日本語名は日本化学会 原子量専門委員会「原子量表(2026)」に収録の名称で、118 元素すべてを照合しています。113番ニホニウムは理化学研究所のグループが発見し、2016年に命名されました。
118個のマスがあります。これが、いま人類が知っている元素のすべてです。宇宙にあるものは——星も、海も、岩も、あなたの体も——例外なく、この118種類の組み合わせでできています。
まず、いちばん単純なルールから。
マスは、左上から右へ、原子番号の順に並んでいます。 原子番号とは、その原子が持っている陽子の数です。水素は1個、ヘリウムは2個、リチウムは3個。順番に1個ずつ増えていって、いちばん最後のオガネソンで118個になります。
つまり横の並びは、軽い順というだけのことです。ここには深い意味はありません。
面白いのは、縦です。
縦の列は、持ち物が同じ
図の上に、1、2、3〜12、13……18という番号の帯があります。これが族です。カーソルを合わせる(スマホならタップ)と、その列だけが残ります。
この縦の列が、周期表のすべてです。
同じ列の元素は、性格が似ています。 見た目も、反応の仕方も、体の中での役割も。原子番号は遠く離れているのに、なぜか似るのです。
理由は、こういうことです。
原子は、原子核のまわりに電子をまとっています。この電子には入る席の順番が決まっていて、内側から順に埋まっていきます。そして——ここが肝心なところですが——その原子の性格を決めるのは、いちばん外側の席にいる電子の数だけです。内側の電子は、外の世界とほとんど関わりません。
そして周期表は、いちばん外側の電子の数がそろうように並べてあるのです。
縦にならぶ元素は、外側の持ち物が同じ。持ち物が同じなら、ふるまいも同じになる。それだけの話です。
持ち物で、やりたいことが決まる
外側の席は、8個で満席になります(いちばん内側の席だけは2個で満席です)。
この「満席まであといくつか」が、その元素のやりたいことを決めます。
- 1個だけ余っている(1族)——邪魔なので、押しつけたい
- あと1個で満席(17族)——何としても1個ほしい
- ぴったり満席(18族)——ほしいものが何もない
- 半分ずつ(14族)——押しつけるのも受け取るのも中途半端なので、手をつないで分け合う
これで、周期表のいちばん左と右の端が説明できてしまいます。
左端の1族は、電子を押しつけたくてたまらない連中です。ナトリウム(Na)を水に投げこむと激しく反応して燃えるのは、水に電子を押しつけているからです。カリウム(K)も同じ列なので、同じように激しい。
右から2列目の17族は、逆に1個ほしくてたまらない。塩素(Cl)が有毒なのは、相手かまわず電子を奪いにいくからです。
そして押しつけたい1族と、ほしい17族が出会うとどうなるか。ナトリウムと塩素で、食塩になります。 激しく燃える金属と、猛毒の気体が、食卓の白い粒になる。周期表の左端と右端が手を結んだ結果です。
右端の18族は、もう満席なので何もほしがりません。ほしいものがなければ、動く理由もない。ほとんど何とも反応せず、静かにしています。ヘリウムが風船に使われるのは、軽いうえに絶対に燃えないからです。
そしてまん中の14族。ここが、この連載でいちばん大事な列かもしれません。押しつけるにも受け取るにも中途半端な4個を持っているので、この列の元素は4本の手を出して、相手とつなぐという道を選びます。手が4本あれば、長い鎖も、立体的な骨組みも作れます。
炭素(C)が生命の材料になれたのも、ケイ素(Si)が岩石の骨組みになれたのも、二つが同じ列にいるからです。片方が生き物を、もう片方が大地を作っている。それでいて、やっていることは同じなのです。
空欄を残した男
この並べ方を作ったのは、19世紀ロシアのドミトリ・メンデレーエフです。1869年のことでした。
ただし、正確に言えば「彼が最初に作った」のではありません。似たような規則性に気づいた人は、同じ頃に何人もいました。イギリスのニューランズも、ドイツのマイヤーも、元素を重さの順に並べると性質がくり返すことに気づいています。
メンデレーエフが際立っていたのは、別のところです。
彼は表を作ったとき、いくつかのマスを空欄のまま残しました。順番に並べていくと、どうしても性質が合わないところが出てくる。ふつうなら、そこで並べ方のほうを疑います。ところが彼は逆をやりました。
「ここにはまだ見つかっていない元素が入るはずだ」
それだけではありません。彼はそのまだ存在しない元素の性質を予言したのです。重さはどれくらいで、どんな見た目で、どんな反応をするか。
そして1875年、フランスでガリウムが発見されます。性質は、予言とほぼ一致していました。1886年にはゲルマニウムが見つかり、これも予言どおりでした。
空欄が、埋まったのです。
このとき周期表は、単なる整理棚から、まだ見ぬものを言い当てる道具に変わりました。科学の理論が本物かどうかは、たいていこの一点で決まります。すでに知っていることをうまく説明できるかではなく、まだ知らないことを当てられるか。
ちなみに、メンデレーエフがこの配列を夢の中で見たという話が広く伝わっています。トランプの一人遊びをするように元素のカードを並べていた、という逸話も残っています。ただし、こうした話はいずれも後年の回想によるもので、どこまで本当かは分かりません。彼自身は、この配列を思いつくまでに長い年月を費やしたと語っていたとも伝えられています。
この連載で取り上げる、14の元素
さて、118個すべてを取り上げるわけにはいきません。この連載では、まず14の元素を扱います。
この連載で取り上げる14元素
カードにカーソルを合わせる(スマホはタップ)と、周期表のどこにいるかが分かります。
水素
炭素
窒素
酸素
ナトリウム
マグネシウム
アルミニウム
ケイ素
リン
硫黄
塩素
カリウム
カルシウム
鉄
この14個は、思いつきで選んだわけではありません。よく見ると、同じ列の相棒がそろって入っています——ナトリウムとカリウム(1族)、マグネシウムとカルシウム(2族)、炭素とケイ素(14族)、窒素とリン(15族)、酸素と硫黄(16族)。片方が生き物の側で、もう片方が岩石や地下水の側にいることが多く、2つ並べて読むと、地球と生命が同じ仕組みでできているのが見えてきます。
顔ぶれは、生き物と地球をかたちづくる主要な元素から選びました。今後増えることがあります。
図1の周期表で、オレンジに光っていたマスがこの14個です。
なぜこの顔ぶれなのか。理由は二つあります。
ひとつは、私たちの体と、足もとの地球を作っているのが、ほぼこの14個だからです。体重の99%以上、地殻の重さの98%以上が、この中に収まってしまいます。残りの100個あまりは、量でいえば「そのほか」なのです。
もうひとつが、たぶんもっと面白い理由です。この14個は、縦の列で対になっています。
- ナトリウム(Na)と カリウム(K)——1族
- マグネシウム(Mg)と カルシウム(Ca)——2族
- 炭素(C)と ケイ素(Si)——14族
- 窒素(N)と リン(P)——15族
- 酸素(O)と 硫黄(S)——16族
しかも多くの場合、片方が生き物の側にいて、もう片方が岩石や地下水の側にいます。炭素は生命を作り、ケイ素は岩を作る。窒素は空気とタンパク質にいて、リンは骨と鉱物にいる。
つまりこの14個を順に読んでいくと、生き物と地球が、同じ仕組みの表裏だったということが見えてくるはずです。少なくとも、私はそう思ってこの順番を選びました。
覚えなくていいのです
最後にひとつだけ。
周期表は、覚えるものではありません。理科室の壁に貼ってあるのも、化学者の机の上に置いてあるのも、必要なときに見るためです。プロも覚えていません。
見るべきなのは、縦。それだけです。
ある元素の名前に出会ったとき、周期表のどの列にいるかを確かめる。すると、その元素が何をしたがっているのかが分かります。上下の元素を見れば、似た性格の仲間も分かります。
118個を覚える代わりに、18本の列の性格を知る。それが周期表の読み方です。
次回は
第1回は、いちばん左上のマス——水素(H)から始めます。
朝、跳ねた髪が水をかけるだけで直るのはなぜか。紙がのりなしで一枚にまとまっているのは、どうしてなのか。宇宙でいちばん軽くて、いちばん多い元素の話です。
もっと知りたい人へ
- 周期表の配置と元素の日本語名:日本化学会 原子量専門委員会[原子量表(2026)](PDF)。「元素の周期表(2026)」と全118元素の日本語名が収録されています。この記事の周期表は、118元素すべての日本語名をこの表と照合済みです(配置は IUPAC=国際純正・応用化学連合版)
- 113番ニホニウムの命名:日本化学会[113番元素の名称・記号が正式決定](2016年)。新元素の日本語名は同会 命名法専門委員会が決めています
- 周期律の提出:Mendeleev, D. (1869) Zeitschrift für Chemie, 12, 405–406(英訳と注釈つき)。これはロシア化学会での発表(メンデレーエフが病臥していたため、メンシュトキンが代読)の独語による抄録です。ニューランズ、マイヤーらによる同時期の先行・並行研究があり、周期律を一人の発見に帰す見方は取られていません
- 未発見元素の予言と的中:ガリウム(1875年、Lecoq de Boisbaudran による発見)、ゲルマニウム(1886年、Winkler による発見)
- 「夢で見た」という逸話:同僚イノストランツェフの回想に由来する伝聞で、同時代の直接の記録はありません。1869年2月の草稿が残っており、表が一夜の思いつきではなく数週間かけて形を変えていったことが読み取れます。検証は Baylor, G. W. (2001) Dreaming, 11, 89–92
- 元素の存在度(人体・地殻):Emsley, J. Nature’s Building Blocks: An A-Z Guide to the Elements, Oxford University Press